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ビタミンB6を補給すれば、改善する統合失調症患者がいる?(推奨度:★★☆☆☆)

皆さん、お大事にされていますか?

薬のソムリエです。

今回は、ビタミンB6の補給によって統合失調症が改善される場合があることを示唆した研究結果を紹介します。

統合失調症は、年間2-3兆円の社会経済的コストを有する、

生活機能が著しく損なわれる脳の疾患であり、実に1%弱が罹患するといわれる、

恐ろしい病です。

一番恐ろしいところは、その人らしさが失われる(人格が解体される、という)ことですね。

ビタミンで改善するほどヤワな病気じゃない・・・という気持ちを押し殺して、

論文の紹介に行ってみましょう!

 

まず、カルボニルストレスとは何かについて説明しましょう。

生体内の糖分や脂質、タンパク質などは、同じく生体内のカルボニル化合物と反応し、

最終的に作られる物質が蓄積すると、細胞毒性を発揮します。

これがカルボニルストレスと呼びます。

先行研究では、カルボニルストレスが統合失調症の発症に関連していることが示されていました。

例えば、一部の統合失調症では、有害な終末糖化産物の1つであるペントシジンが血液中に蓄積している事や、

カルボニルストレスの負担を軽減するための重要な物質であると考えられている

内因性分泌型終末糖化物質受容体が、健常者と比較して有意に低いことが分かっていたからです。

 

ペントシジンはピリドキサミン(3種類あるビタミンB6の1つ)に捕捉されて体外に排出されることから、

ペントシジンが蓄積する統合失調症に対して、大量のピリドキサミンを投与する事で、

ペントシジンを除去し、精神病症状がどれほど減少するのかを検証したというのが、今回紹介する研究の趣旨です。

 

統合失調症の入院患者のうち、血漿ペントシジンが一定値以上(平均値から2標準偏差以上)を満たす患者を

10名募り、通常の食事から摂取する1000倍もの大量のピリドキサミン(1200mg~2400mg/日)を、

それまで内服していた抗精神病薬と併用して24週間かけて併用しました。

精神病症状の評価は、PANSS (世界で最も使われている陽性・陰性症状評価尺度。(一社)日本精神科評価尺度研究会)

及びBPRS(簡易精神症状評価尺度。同)を用い、介入前からの平均変化量で評価しました。

結果としては、10名中8名で血漿ペントシジンが減少し、精神病症状も26.8%程度減少していました。

2名でウェルニッケ脳症様の副作用が出現しましたが、チアミン(ビタミンB1)の速やかな補充で

後遺症を残すことなく完全に回復したとのことです。

 

また、著者らによると、カルボニスストレスが亢進している統合失調症患者は、薬剤抵抗性で多くの薬剤を服用している患者、

若年で教育年数が少ない患者に多いそうで、そのような方への治療法の1つになり得ると結論しています。

同研究グループによると、カルボニルストレスが亢進していた患者は、45例中21例で、約半数ほどになるとのこと…!

もしこの仮説が本当であれば、治療適応になる患者は大変多く、

画期的な治療だということになりますが、いかんせんサンプルが少なすぎるので、

現時点ではあくまでも仮説、というところにとどまると思います。

今後、是非ランダム化試験をしてもらえるといいですね。

 

そもそも、統合失調症の原因として最もメジャーな仮説は、

ドーパミンという神経伝達物質が過剰放出されることだとされています(ドーパミン仮説)。

しかし実際はドーパミン仮説だけで説明することは難しく、

抑制性GABAニューロンのNMDA受容体の機能低下など、他の脳機能異常との関連もあるとされます。

要は統合失調症とは、単一の病態ではなく、様々な脳の病態が絡んでいる症候群なのです。

今回紹介する研究では、あらゆる原因の一端として、カルボニルストレスが関係している病態があるんだ、

と理解しておけばよいと思います。

 

 

薬のソムリエ
補助療法として有効性の高い治療がない現在、ビタミンB6補給で済むのなら、試してもよさそうです。
ただ大量投与でウェルニッケ脳症様のリスクが高まったとすると、注意が必要です。
そもそもウェルニッケ脳症は、ビタミンB1の不足によって脳が正しく機能しなくなり、
意識障害、眼球運動障害、ふらつきなどが出現し、未治療では死亡することがあります。
服用するならそこまで大量でないほうが無難かと。ビタミンB1と合わせて服用すると安全ですね。
サプリを使用する場合なども、
くれぐれも、無理しない範囲での摂取をお勧め致します。

 

【引用・参考文献】
・Miyashita M, et al.Pyridoxamine: A novel treatment for schizophrenia with enhanced carbonyl stress.Psychiatry Clin Neurosci. 2017 Oct 24.
・Miyashita M, et al. The regulation of soluble receptor for AGEs contributes to carbonyl stress in schizophrenia.Biochem Biophys Res Commun. 2016;479:447-452

更新:2020.4.4

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