こころのネット外来「HOSPORTAL」は、病状を評価し、正しい行動につなげていただく事を目的とした受診勧奨サイトです。

ドラムを叩くと認知機能が改善される?(推奨度:★☆☆☆☆)

 

薬のソムリエ
♬♪♬♩~♫♩
ウエタ主任
おやおや。これはこれはソムリエさん。ひとりで大きな鼻歌とは、通報をお望みのようですな。

 

薬のソムリエ
そんなに怪しいですか、僕。
・・・本当に主任は通報が好きですね
ウエタ主任
正義感ですね。世界の平和は私が守るのです。

 

薬のソムリエ
それはアンパンマンに任せておいて下さい。
上機嫌なんだから、鼻歌くらい歌わせてくださいよ。
ウエタ主任
おや。ではいったいなぜ、そんなに上機嫌なのですかな?

 

薬のソムリエ
私、Jazzをよく聴くんですけどね。
次の休みに、BLUE NOTE TOKYOでJazzライブを
聴いてくるんですよ!それが楽しみで・・

 

ウエタ主任
ははあ、さすが犯罪者ですね。
このコロナ禍でライブイベントに参加するとは・・・

 

薬のソムリエ
いやいや。犯罪じゃないし。
息抜きも大事なんですよ?
主任は自粛で家にこもりきりで、頭がおかしくなりませんか?

 

ウエタ主任
とんでもない。私には人並み外れたセルフコントロール能力がありますから。
普段以上に、規則正しき生活を送っていますよ。

 

薬のソムリエ
へえ。それは立派なもんですね。
毎日自宅でどんな生活ぶりなんですか?
ウエタ主任
朝6時に起き、カレーを食べます。
昼は12時、カレーを食べます。
そして夜はきっかり18時。もちろんカレーを食べます。

 

薬のソムリエ
そうか。もともと頭がおかしいんだった。
ウエタ主任
失敬な。
この間、友人から、カレーが認知症に良いと聞いたものでね。
超高齢化社会に備え、ゆめ認知症になるまいと誓ったわけです。
いつも二手三手先、だけでなく、半世紀先をも考えて生きる男ですから、ワタクシ。

 

薬のソムリエ
ほうほう、カレーといえばクルクミンですよね。確かに抗酸化作用はありますね。
・・・でも、食事が偏っていると、逆に認知症にとってよくないんじゃないかな・・・。

 

ウエタ主任
なんと。カレーがあれば認知症にならないと言われたのに。

 

薬のソムリエ
何事もバランス、ですよ。
そしてバランスの良い食生活は認知症予防に必要なことですが、
主任は他のアプローチを知っておいてもいいんじゃないですか。
たとえば、音楽とか。

 

ウエタ主任
音楽は認知症によいのですか?

 

薬のソムリエ
聴覚刺激が認知症によいというのは、昔から報告が上がっていますね。
それ故に難聴は認知症のリスク因子だとか。今日は、音楽が認知機能を改善させるという、最新の報告をご紹介しましょうか。

 

ウエタ主任
ほほう、それは楽しみですな。

 


認知症の改善に向けてさまざまな介入プログラムが提案されているが、認知症の中核症状である失行(麻痺がないにもかかわらず生じる運動機能障害)が現れると、複雑な動作を伴うプログラムには参加すること自体が難しくなる。一方で、ドラム叩きのようなリズミカルな運動は、それほど力も使うことなく、認知症が進行してからでも無理なく行うことができる。

著者らは、ドラム叩きを利用した認知症改善プログラムを作成しその効果を検討した。

特別養護老人ホームの居住者46人を無作為に、プログラム介入群27人、非介入群(対照群)19人に分け、介入群は週に3回、1回30分、12週間にわたり、ドラムインストラクターとともにドラム叩きをしてもらい、対照群は普段どおりに過ごしてもらった。ドラム叩きは必ずしも演奏を目的としたものではなく、即興性を重視して自由にリズムを楽しむものとした。なお、介入群の84.78%は車椅子を使用しており、ドラムに両手が届かないため、利き手だけで叩くか、車椅子のテーブルに置いた軽量のフレームドラムを叩いてもらった。

介入前の認知機能は、MMSEという指標(30点満点)が介入群12.93±6.64点、対照群12.89±6.89点、FABという指標(18点満点)では同順に6.37±3.12点、6.21±3.75点で、いずれも同等だった。また、上肢運動機能(関節可動域)やBMI、骨格筋量指数(SMI)も有意差がなかった。

12週間の介入期間中のドラム活動への参加率が60%に満たなかった人などを除き、介入群22人、対照群17人を評価対象とした。その結果、MMSEは介入群が2.05点上昇したのに対し、対照群は3.24点低下(P=0.004)、FABも同順に2.36点上昇、0.35点低下して(P=0.043)、ドラム介入による認知機能への有意な効果が明らかにされた。

上肢の関節可動域は、肩屈曲が介入群で6.14°増加したのに対し、対照群は5.88°減少(P=0.040)、掌屈が同順に10.91°増加、1.47°減少(P=0.000)し、有意差が認められた。肘屈曲や肘伸展、背屈には有意差がなかった。また、体重やBMIの変化には群間差がなかったが、インピーダンス法により評価した全身のタンパク質量、SMI、利き腕の筋肉量は介入群で低下し、群間に有意差が認められた。なお、うつ症状の主観的スコアには群間差がなかった。

この結果から研究グループは、「認知症の人でもドラムを叩くことで認知機能が改善し、上肢の運動機能の一部が向上することが明らかになった。要介護度の高い高齢者や認知症の人の認知機能と身体機能の維持・改善ツールとして、このプログラムの利用が期待される」とまとめている。なお、介入群で筋組成の一部にマイナスの影響が認められたことに関連し、「筋タンパク合成を維持するための適切なアミノ酸摂取が推奨される」と付け加えている。


ウエタ主任
ドラムが必要なのですか…?
私はミニマリストゆえ、あまり大きなものを部屋に持ち込みたくないのですが。
それにしても、ドラムを用意するなどというのは、一般家庭にとってはハードルが高すぎやしませんかね。

 

薬のソムリエ
うん。ハードル高すぎ高杉くん。
ウエタ主任
…いよいよ通報をご所望のようですな。
して、私の疑問にはどうお答えに?

 

薬のソムリエ
この研究ではドラムセットで検証してはいますが、
何もドラムセットじゃないとできないことではないんじゃないですかね?
認知機能維持に役立ちそうな因子っていうのは、
①力をそれほど必要としない、リズミカルな運動
②リズミカルな聴覚刺激と、刺激した後の応答
が重要だと思うので。

 

 

ウエタ主任
つまり、叩いて音が鳴るものなら何でもよいと?

 

薬のソムリエ
既にあるものでいいんじゃないですか。
極論、お箸とお皿があればそれっぽいことはできそうです。
ウエタ主任

食事中にやるには行儀が悪すぎではありますが、面白い試みではありますな。

それから気になっているのですが。筋肉量が落ちるのは本当なんですか。

 

薬のソムリエ
うーん。ハードにやりすぎて、超回復が追い付かなかったんですかね。
高齢者にとって、ドラムを叩く30分がどれくらい辛いものかわからないですが・・・

 

ウエタ主任
そうですか。
今日はいいことを聞きましたな。ありがとうソムリエさん。

 

 

薬のソムリエ
どういたしまして。主任、今日はやたらと素直じゃないですか。
ウエタ主任
早速、三食カレー生活を辞めてみようかと。

 

 

 

薬のソムリエ
え。そっち?

 

【引用・参考文献】
Miyazaki A, et al.Drum Communication Program Intervention in Older Adults With Cognitive Impairment and Dementia at Nursing Home: Preliminary Evidence From Pilot Randomized Controlled Trial.Front Aging Neurosci. 2020 Jul 2

更新:2020.10.9