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うつ病はどんな方法で診断する?精神科の診断法。

うつ病の診断法

うつ病の診断は、職人芸ではない

皆さん、お大事にされていますか?

薬のソムリエです。

 

ところで今、私が今勤務している病院は、うつ病の患者さんが多いのですが、

そんな患者さんから寄せられる疑問の1つに、何を根拠に診断したんですか?というものがあります。

ねえ…。

ホントは、

 

精神科医へのクレーム

 

「うさんくさいんだよな、精神科医てのはよお!」

 

って言いたいんでしょ?

ええ、わかってます。わたくし。

 

わかります・・・わかりますよ?

確かに、他科であれば、客観的な検査がありますからね。

例えば、レントゲンを撮って腕の骨が折れていれば、

誰がどう見ても、明らかに骨折だとわかります。

 

ただ、私たちはそれがないものだから、

患者さんとしては、

 

精神科医の説明

 

「あ、ここ・・・なんか腫れてるね? あとここ、なんとなく動かないね?
もうコレ・・・・骨折ってことでいい?もう、骨折でいこう!!!」

みたいに、適当に決め付けられているように感じるのでしょう。

これは、無理のないことだと思います。

 

ただ、それに関しては反論する気はないです。

実際、目に見えないものを診断しているのだから、

どんな強気に言っても内科や、整形外科など見えるものを扱う科と比較すると、

到底、診断精度は低いです。

 

精神科医の診断法の歴史

話を戻しましょう。

精神科医は、どのように診断していると思いますか?

 

精神科医の診断

「この眉毛の動き…表情の硬さッ…、この反応の鈍さは……!!

適応障害ではなく!!!!…うつ病じゃあッッ!!!」

 

みたいな、職人芸のイメージでしたか?

 

 

実は昔は、そうやってました。

 

経験豊かな偉い先生の診察場面を若い先生が陪審して、

うつ病と診断された人の様子や、適応障害と診断された人の様子を、

学んで修行し、自身の診療に生かす、ということをやっていたんですね。

 

その技が、脈々と次の世代へと受け継がれてきたわけです。

この、患者さんの表情、振る舞いや態度、言葉の発し方など、

本人の様子から診断する方法を、従来診断(伝統的診断)と言います。

 

従来診断はある種、職人の伝統芸宜しく神秘的で、謎めいたところがあり、

臨床的にも結果を出すことも多々あったんですが、

ここで一つの問題が残ります。

教わってきた師匠によって、

微妙に診断が異なってくるという現象があったのです。

人間の感性なんてのは、人によって違うから、当然といえば当然ですね。

 

しかし。医師によって診断が違うなんて事が、科学と言えるでしょうか?

腐っても、精神医学を名乗るのであれば、

臨床、研究は客観的なデータを重んじるものでなくてはなりません。

研究を行うにも、精神科医によって診断のブレが大きければ、

データの客観性を担保する事なんて、到底できません。

 

そこで、出来るだけ診断が一致するよう、先人たちが苦労して

診断基準を作り上げました。

これが、操作的診断基準です。

操作的診断基準には、アメリカが作ったDSM−5、WHOが作ったICD−10があり、

概ねどちらかの診断基準を使います。

 

さあ、ここで本題に戻りましょう。

DSM−5でのうつ病の診断基準は、以下の通りです。

 

①ほぼ1日中持続するうつうつとした気持ち

②ほぼ1日中持続する興味や喜びの減退

③体重減少や体重増加、または食欲の変化

④不眠または過眠

⑤落ち着きがない、または動きがのろくなっている事が他者から観察される

⑥疲労感、無気力

⑦価値がないと考える、または罪悪感

⑧思考力、判断力、集中力の低下

⑨死ぬことについての反復思考、自殺念慮

以上の9つの症状のうち5つ以上、かつ2週間以上持続的に存在し、そのうちの少なくとも1つが①か②であるとき、うつ病と診断する事にしています。

このように、うつ病は症状と経過から診断されるのです。

その他の疾患も、大体同じように、症状と経過から診断されることが多いです。

診断は、従来診断と操作的診断の組み合わせ

しかし、診断基準のみを使っても、まだ十分な客観性を保てているとはいえません。

先ほどのDSM-5のうつ病の診断基準のうち、

例えば①のうつうつとした気持ちであれば、

 

 

患者

 

「なんつーか、ちょっとコロナでクラブも自粛とかマジ草。居酒屋で我慢してるから、頭オーバーシュートしそうなくらいへこんでるんだけど?」

 

と訴える若者も、

 

患者

「私は何をしてもうまくいかないんです…やる気がなさ過ぎて動くのもつらいんですけど…。。。これは甘えなのでしょうか…。」

と訴える中年男性も、

どちらも①を満たす、という事になってしまいます。

 

このように、患者さんの訴えをどのように解釈するかによって、

診断が変わって来ちゃうんですね。

患者さんがそもそも症状を訴えない事もありますし、医師側が訴えを無視することもあるわけです。

 

こうなると、正しい診断に行き着くには、かなり障壁があるんですよね・・・。

 

そこで従来診断との組み合わせが必要になってくるわけです。

どちらの診断法でも診断しておいて、

それをすり合わせて適切な診断と治療を考えるわけですね。

僕は、カンファレンスでは操作的診断ではうつ病、

従来診断では適応障害です、という風に発表していました。

全てのDrがこのように診断しているかはわかりませんが、

少なくとも私の研修先ではこのように指導されていました。

この方法で、少しでも患者さんの改善に近づく見立てができるとよいのですが、

やっぱり見えないものを診る、というのは、大変です・・・。

正しい診断に意味があるのか

診断基準に合致する、という意味で正しい診断に近づける事は、

トレーニングによって出来ます。

しかし、「あなたはうつ病ですよ」というところまでは到達できても、

そのあと、「でも、うつ病ってあんまりわかっていないんだよね」といわざるを得ないのです(この点については、いずれ記事にしたいと思います)。

まるで、必死に宝探しをして見つけた宝箱を開けたら、

宝の地図だった、という感じですね。

なので、仮に正しい診断をしたとしても、

薬が効かなかったり、むしろ悪化したりと、

必ずしも患者のアウトカムに繋がらないことも多いのです。

内科では、正しい診断が正しい治療につながり、

結果患者の改善率を高めるし、

そもそも、検査の分、誤診も少ないのかもしれません。

しかし精神科は、正しい診断が、

イコール必ずしもその人の病態を捉えた、という事にはならないんですよね。

や、もちろん正しい診断をしようとする事が、

無意味だということではないですよ。

ただ、診断がどうあれ、

色々な薬、アプローチをためしながら、

良くなる方法を模索していくのが精神科なんです。

 

診断が正しいからうまくいく、

うまくいかないのは誤診なのでは?

と、考えてしまう事は不毛だということです。

 

オーダーメイドな治療を、患者さんと医師とで

一緒に考えていくのが、他にない精神科の診断・治療の特徴なのです。

それでは皆さん、お大事に。

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更新:2020.4.8

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