皆さんお大事にされていますか?
どうも、薬のソムリエです。
本日は医療従事者、特に精神科と関わりが浅い科の
スタッフに向けた記事です。
皆様には平素より大変お世話になっております。
短時間でできる認知行動療法(CBT)の必要性
世の中には、消化性潰瘍、緊張性頭痛、機能性ディスペプシアなど、
ストレスが関連していると言われる、
いわゆる「心身症」が存在します。
現在では、糖尿病や不整脈にもストレスが関連している
事がわかってきています。
「胃部不快感」「動悸」「立ちくらみ・めまい」
などの症状で受診され、
「まいったな…何も検査で異常ないよ…」
とお困りの内科の先生も大変多いと思います。
もちろん、手に負えなければ精神科を
紹介していただければ良いのですが、
少しでも気の利いた一言が言えたら、さらに
診療の幅が広がる事と思います。
糖尿病や高血圧などの患者さんに対し、生活指導の成果を高めるのも、
認知行動療法が有効です。
あるいは、入院中のストレスで
せん妄になったり、精神的に不安定になる患者さんを
多く診ている看護師さんも大勢いらっしゃると思います。
今回は、そのような方にお勧めの、
簡単かつ、短時間で行える、実践的なスキルをご紹介しますね!
あ。
使用する心理療法のベースは、
認知行動療法(CBT)と言われる技術で、
CBTをご存じなく「何それ美味しいの」という方は、こちらの記事を読んでから
ご覧いただくと、より理解が深まります。
認知にアクセスする方法
メタ認知
否定的思考や感情を、絶対的事実ではなく、各々の抱えている感情や思考に
過ぎない、という点を認識できるようにするための技法です。
自分がいて、その斜め後ろの方から客観的に自分を見ている、新しい自分の目線で物事を捉え直します。
簡単にいうと、俯瞰したものの見方を養う、という事ですね。
実際に表現を変更してみて、
その上で、気分がどのように変化したかをフィードバックしてもらいます。

自分を、やや斜め後ろから客観的に、新たな自分が見ていると思って、表現を変えてみるトレーニングです。
例えば、「と、私は思った」を追加してみましょう。例:私は試験に落ちるのが心配だ
→試験に落ちるのが心配だ、と私は思った。
追加してみる文言の例を挙げておきます。
「~という思考を私はもっている」
「~と私の心・脳が言っている」
「~と私の中の悪魔が言っている」
全力で考える
多くの人は、嫌な思考を排除しようとすればするほど、しばしば逆効果となり、
その思考がより鮮明になることがあります。
恐れている特定の状況に関するイメージ、思考を、
時間を決めて全力で考えて、慣れさせておくと、
その後、意外と考えなくて済むようになることもあります。

これまでなるべく嫌な事を考えないようにしてきましたが、結果、忘れられませんでしたね。
逆転の発想で、時間を決めてなるべくその嫌なことを考えるようにしてみましょう。
例えば、お昼の30分間、全力でその事を考えてみましょうか?
安全を保証する
「安全の保証」は、主にパニック発作の際に使われる技法で、
「体がコントロールできない、死ぬのではないか」という思考に直接的に働きかけます。
それほど、白衣を着た人間の言葉には重みがある、ということです。

実際のところ、これはパニック発作というもので、交感神経という緊張・興奮を司る神経が暴走したこと
によって起こる症状です。この発作は苦しいですが、命を脅かすものではなく、必ず発作は止まります。
過去にも同じようになったことがおありだとのことですが、その時も命に別状はありませんでしたよね?
大局的な見方
問題を大きな枠組みで考えるよう促すと、否定的感情が減る可能性があります。

その否定的考えは、1年後にも続いているでしょうか?
それでは、5年後では?
やはり、今と同じように重要な考えだと思いますか?
自己開示
治療者の自己開示により、
患者に自分の思考をそれまでとは異なる視点で
見つめさせる事があります。

もちろん、私も就職活動をしていた時期があるのですが、
何度も落とされて「自分は価値が無いんだ」って考えたことがあるんですよ。
でもね、「その会社にとって、自分は価値がないだけだ」と考えなおしたんです。
そうすると、幾分気分はマシになりましたよ。
あなたは、自分は価値がないと考えているから、自信を持ってプレゼンできないんでしたね。
すると、そう考える方が損しているかもしれなくて、もし私のように考えなおしたら、
実力を発揮できて、さらに合格率を高められるんだって、考えられませんか?
行動にアクセスする方法
スクエア・ブリージング
代表的な呼吸法の1つで、
四角を描くように、4カウントで呼吸を行うというリラクゼーション法の1つです。
やり方は簡単で、
①4カウントで息を吸い、
②4カウントで息を止め、
③4カウントで息を吐き、
④4カウントで息を止める
これを4セット行うものです。
息苦しい方は、カウント数を変更していただいても構いません。

この呼吸法は、交感神経の働きを抑え、リラックス効果を得るものです。
簡単なので、もし緊張や不安が和らぐようなら、この方法を練習してみませんか?
行動活性化
うつ病の方によい適応で、抗うつ薬と同等の治療成績があります。
うつ病の方は身体もだるく、気持ちも沈んでいるため、活動性が低下し、
活動性が低下する事によりさらに否定的感情を強めています。
無理をしない範囲で、かつ可能な範囲での活動を促すと良いでしょう。

なかなか外出も億劫になりますよね。でも、近所のコンビニも行けませんか?
あるいは、1歩も外に出られない状態なのでしょうか?
少しは出られるようになった事を、確かめてみませんか。
もちろん、外出してより疲れてしまったら、次からさらに少ない負荷で
外出していただいてかまいません。
注意転換法
他の事柄に注意を向けることで、短期間であれば否定的思考を制御できる事が期待されています。
不安症やうつ病の患者さんに有用な事があります。
もちろん、本質的な解決策ではありませんが、
強力な否定的感情に飲み込まれず、現実的な解決法を考えられる状態になる事を目指しています。

ここに簡単な課題を用意しました。これからその課題を10分間取り組んでもらい、
気がまぎれるかどうか、やってみましょう。
(課題の内容はパズルゲーム、楽器演奏、散歩、家事、簡単な計算問題など、なんでも可)<終了後>
さあ、課題を始める前の否定的な感情を100%とすると、今現在は何%ですか?
マインドフルネス歩行
マインドフルネス法は、禅の影響を受けた、抗うつ、抗不安効果にエビデンスがある
方法ですが、簡便なものならば忙しい外来でも伝える事が可能です。
マインドフルネス技法のうち、マインドフルネス歩行はそのひとつです。
理屈は単純、歩いた足の感覚に集中しながら歩くだけ、です。
具体的には、以下のように教示すればイメージが掴めるでしょう。

まず数回深呼吸し、活力が体内に湧き上がるのを感じましょう。
続いて、歩きながら、自分の注意を足と地面が当たるときの感覚に移して下さい。
足が地面に置かれ、それが再び地面から離れる、些細な動きを全て感じることに集中して下さい。
靴下の蒸れ具合は?靴の弾力は?些細な感覚にも、意識を向けて下さい。
注意を足に向けたままでも、関係する足の筋肉に向けてもいいですよ。
下肢、臀部、膝・・・どの筋肉が緊張し、弛緩するのでしょうか。
歩きながら、周囲の状況に注意を向けるのも良いでしょう。日差し、風、雨上がりの匂い、子供たちの声・・・
五感が感知したものに意識を集中させながら、歩いてみましょう。
ただ、気がついた物事を、判断したり、解釈したりせずに、ただ、観察してください・・・。
もし、解釈、観察してしまった自分に気が付いたら、穏やかに自分の意識を「今、この瞬間」に戻すだけで良いです。さあ、歩き終わったら、ご自身の感情や身体の感覚は、どのように変化しましたか?
マインドフルネス歩行を練習したら、必ず振り返りを行う事が、効果を上げるコツです。
いいね!日記
自己評価が低い場合に用いられる技法です。
自尊心が過度に低いと、客観的にはそれほど大きなミスでなくても
強く自責的になったり、
(例:会社でコピーの部数を間違えた。私はこの会社に必要のない存在だ)
成功体験を差っぴいて考える事がしばしばあります。
(例:営業の成績がよく表彰されたが、単に周りのみんなが不調だっただけ、来月にも1位になるなんてあり得ないだろう)
このようなケースでは、ポジティブな事象に意図的に気がつくことで、
自分の価値に気がついてもらう方法が有効です。
簡単なものに「いいね!日記」がありますが、
その方法は超簡単。
自分の達成したことや他人からの称賛など、
ポジティブな証拠を記録していくだけです。
また、患者さんが落ち込んで弱気になった時、
その日記を読み返すと気分をアップさせるのに役立ちます。

これから毎日、小さなことでいいから、前向きな事を記録していきましょうか?できれば、
数か月は続けていきたいですね。具体的には、以下のように記載していきます。
日付 | 何が起きたか | どのようなポジティブな事実を示すか |
5/23 | 自分のために、バランスのとれた食事を作った | 料理がうまい |
5/24 | うんざりしながらも仕事に行った | 意志が強い |
いかがでしたでしょうか。
精神科医でなくても、
患者さんに使えるCBTのスキルを書いてみました。
もちろん、信頼関係がないのにマインドフルネスなんてやっちゃうと、
「宗教の勧誘をされた」という苦情がきてしまうので、
普段から受容・共感・傾聴を意識して
信頼関係を形成した場合に試すことをお勧めします。
明日から使ってみて、さらに患者さんがよくなって、
余裕ができて精神科の患者さんの体の相談にも
たくさん乗ってくれるといいですね!
それでは、今後とも当科のサポートを、
何卒よろしくお願い致します。
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【引用・参考文献】
・ジュディス・S・べック 認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで第二版 星和書店
・Lee David 10分でできる認知行動療法入門 日経BP社
・福井至 図解やさしくわかる認知行動療法 ナツメ社
更新:2020.5.23
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